
第二章からの続き
……腕まくりをし、気合い充分の私はラチェットを手に取りジャッキを上げた。
「やるぜ!」「やりましょ!」二人は互いに目で語り合う。
お互い腐ってもやはりメカニックのつもり
あうんの呼吸で二人のコンビネーションプレイが始まった。
「そっち持って」と言う前にすでに支えられ、次はこれだとばかりにすかさず工具を手渡し合う。
そう、二人はその瞬間一つになったのだ。
タイヤを外し、第一の難関が訪れる…。『ビード落とし』だ。
タイヤの横面を専用の工具で挟み込んで一気に内側に落とし込む作業。
チェンジャーがあれば空のヤクルトを指先で潰すほどの軽い作業なのだが・・・。
無論、人力工具はそうはいかない。
「グッ、ン、グ〜ッ!汗」
思わずオナラが出そうになるほど『力』と『コツ』がいる。
しかも偏平タイヤでやりずらい・・・「バコッ!」第一の難関突破。
息つく間もなく次なる試練『ビード出し』だ。
当然チェンジャーのない当店はタイヤレバーを使っての人力となる。
ここで気をつけなければならないのはリムに傷をつけてはならない、ということだ。
パウダーコートされてそうな黒光りする美しいホイール。
そのすぐ横ではお客さんの熱いまなざし…。
二人は息を飲み、高校入試テスト並に精神を集中させた。
あっちを押さえてこっちではこじる…。気付けば二人はすごい体勢に。
床に番号付きのシートを二人でランダムに手足で押して絡み合うゲームのよう二人は交わっていた。
やればできるぜ!と見事無傷でチューブを取り出した。
その後作業は順調に進み、完璧にお客さんの要望に応える結果となったのだ。
まだ少し冷え込む時期だったが、作業完了後の二人はアセワキパットが必要なほど汗ばんでいた。
「有難う!助かったよ!」と喜んでお客さんは去って行く。
私と池ちゃんは顔を見合わせ、ニンマリと笑い「グッジョブ!」と拳をぶつけ合った。
しかしまぁこの疲れ様、仕事始めの時間帯にもかかわらず、もう店を閉めようかと思うほど心も体もすり減った。
その時一つの想いが私の心に芽生える。
「買おう…」
私の本気の意思を聞いた池ちゃんは水を得た魚の様にイキイキと、
そして軽やかな足取りでダンスしたのだ…。
数日後、とうとうLIFEに「鉄野郎」がやって来た。
「わっせ!わっせ!」とチェンジャーをセットする。みんな無意識に笑顔だ。
「買って良かった」と血尿の思いで注ぎ込んだ金の苦悩も一瞬で吹っ飛んだ。
さぁ、ようこそLIFEへ!と勢いよくペダルを踏み込む
「プシューッ!」「グイーン!」
イタリア製コルマック社の新品チェンジャーが産声を上げた瞬間だ。
私は喜びの余りチェンジャーの上に乗り、回転しながら熱唱する
「アモーレ!」
それを見て池ちゃんがつぶやいた。
「これでやっとタイヤ交換が好きになる」
すかさず私が言う
「今度からタイヤ交換は私がしよう」
勝手な親方もこの際買い替えて欲しいと思ったに違いない…フフフ
『タイヤチェンジャー』 完